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L

とても悲しい光景が広がっていた。

少年は少女の手を引いて、背中を向けた。
二人の肩は震えている。きっと泣いているんだろう。

寂しさは、いつも暖かさの隣にある。
暖かかったからこそ、彼らは今寂しいんだ。悲しいんだ。
そして彼らはこれから先もずっと寂しさと戦っていくんだ。たった二人で。

それが、彼が望んだことだったから。
でも……


____________________L__________________________

 


楽しいはずの修学旅行には似つかわしくない凄惨な事故現場。
二人が去ったその場で、一人の男が佇んでいた。長身で茶髪。血のような紅の瞳を持った男。彼の胸からはその眼の色よりもずっとどす黒い液体が流れている。

「……いったか」

彼はその真紅の瞳を開けるとポツリとつぶやいた。
……これでいい。これでいいんだ。
自分に言い聞かせるように頷く彼だが、その動作すら億劫に感じるほど、彼の傷は深かった。

その時、ちりんという鈴の音が聞こえた。彼にとってそれはとても聞きなれた音だ。その音はもう遠くなりつつある彼の耳にもしっかりと届いた。
信じられない。という顔をする彼。すでに光を失いつつあるその瞳に映ったのは、「L」というアルファベット一文字。

「お前、何やってるんだよ」

彼は呼びかけるが、「L」は答えない。ただ二つの瞳で彼の顔を覗き込んでいる。

「大丈夫だ。現実でもこれと同じようになる。あの二人は助かるんだ」

返事がないことを気にするでもなく、彼は話し続ける。その姿は、相手を説き伏せているというより、まるで自分に言い聞かせているように見えた。

「だからな、もう行け。お前の役目は終わったんだ」

笑みを浮かべる彼。それきり彼は何も語らなかった。無言で「L]がその場を去るのを見届けようとしている。二人の間に長い沈黙が訪れる。それでも「L」はその場から一歩も動こうとはしなかった。いや、それどころか逆に「L」は彼へと歩み寄り、何かを彼へと差し出した。

「……手紙?」

そう、それは一通の便箋。その便箋はとても綺麗で、笑えるほどこの場には不釣り合いだ。しかもご丁寧にペンまで用意されているときたもんだ。
……これを書けってか、人使いの荒い奴だ。
彼は心の中でそう毒づきながらもその手紙を受け取る。だが、彼の片腕はもうピクリとも動かなかった。それでも彼は動く方の腕で便箋を持ち、口にくわえたペンに悪戦苦闘しながらも、必死に手紙を書こうとした。
その間、「L」は何を言うでもなく、じっと彼が手紙を書き終わるのを待ち続けた。どれくらい時間がたったのだろう。彼はもう動かない体でたった一言だけを書きおえた。

「ほら、いいよな、これで」

彼が手紙を差し出すと、「L」はそれを受け取った。
その光景を見た彼は優しい笑顔を見せ、「L」の本当の名前を呼んだ。

「ありがとな。ーーーー」

 

 

名前を呼ばれた「L」はその手紙を持って走り出した。この場から去った、2人のもとへと。
「L」は必死で追いかけたが、僅かの差で二人は救急車によって運ばれていってしまった。それでも「L」は二人を追いかけた。

救急車のスピードに勝てるはずもないが、必死に追いすがる。
小さくなっていく救急車を身失わまいと必死で食らいつく。

赤信号も、自動車も「L」には関係なかった。ただ二人に手紙を渡すことだけを考えていた。


そして、悲劇は起こった。
横道からでてきたバイクに「L」が跳ね飛ばされたのだ。
その小さな体が宙を舞う。一回、二回、三回と地面を跳ね、ようやく「L」は止まった。
バイクに乗っていた男が駆け寄るが、「L」は立ち上がり、よろよろと、それでも自分の傷など気にかけず再び駆け出した。


どれくらいの時間走り続けただろう。「L」は既に満身創痍だった。
それでも「L」は痛む体を引きずり走り続ける。


もう片足は動かなくなっていた。

目には血が入り、見えなくなっていた。

二人を乗せた救急車はもう見えなくなっていた。

 

それでも……それでも「L」は二人を追いかけた。
言われたからじゃない。自分の意志で。

いつも自分と一緒にいてくれた、彼女のために。
こんな自分に名前をつけてくれた、彼のために。

……「L」は走り続けた。彼の瞳のような紅い雫を点々と零しながら。

 

 

________________________________________

 

 

「僕は鈴を守って生きる」

病室に少年の声が響く。静かな……だが、とても強い声だ。
その姿は、どこか彼の姿を彷彿とさせた。

「理樹ならいいな……理樹がいるならこれからも生きていけそうだ」

鈴と呼ばれた少女も少年の言葉に頷く。
それはいつだったか……彼が強く望んだ光景だった。
……俺達がいなくても生きれるくらい、あいつらを強くする。
そう、彼はよく言っていた。

そして、まさに今その望みは叶った。
だとしたら彼はすでに役割を終えたのかもしれない。
もうこの二人は、自分たちだけで生きていく強さを手に入れたのだから。

「強く生きよう。二人で」

 

彼らが決意を固めようとしたその時、音もなく病室の扉が開く。そこから入ってきたのは……一匹の子猫。本来純白であるはずのその体は、猫自身の血で真っ赤に染まっていた。一体この状態でどうやってここにたどり着いたというのだろう。

「お前は……」

二人は……その猫に見覚えがあったはずなのに、その名前を思い出すことができなかった。それはまるで記憶にぽっかりと穴が開いたようだった。
少女が心配して猫へと駆け寄ると、猫は一通の手紙を差し出した。ぐしゃぐしゃになって、血がべったりとついた、決して綺麗とは言えない手紙。

少年と少女は二人でその手紙を開く。そこに書かれていたのは、小学生が書いたような汚い字で、たった一言。


ーーーいいよな、これで

 


「「よくない……!!」」


それを見た二人の声が重なった。先程まで二人で生きていくことを決意していたはずだった。それが求めていた強さだと信じていた。
だが、彼らは気づいてしまった。本当の彼らが求めていた強さに。もう一度あの日を取り戻せる強さに。……たった一枚の手紙によって。

決意をこめた眼をした彼らは、二人で手をつなぎあった。あの大きくて強い輪をもう一度取り戻すために。
もう彼らは大丈夫。きっと全てを取り戻してくれる。

決意を固めた二人を見つめながら、猫はその瞳を閉じた。
……役割を終えた猫は……もう動かなかった。

 


_________________________________________

 

 


丘の上、一つの墓の前に彼が佇む。墓といっても荘厳な石造りの物などとは程遠い、とても簡素で味気ない物だ。それもそのはず、この墓は彼が一人でつくりあげたのだから。彼以外、もう誰も名前を覚えていない、だけど大事な存在のために。

「馬鹿だな、お前は」

彼はぽつりとつぶやくと、先程花屋で買ってきた花束をその墓の、きれいに磨かれた鈴の隣へと添えた。
静かな風が流れ、彼の茶色い髪を揺らす。静寂が彼の周りをを包む。鈴の音のみがその場に存在する音だった。

「だけど、お前のおかげで……俺たちはまだ生きていける」

彼は笑んだ。滅多に他人に見せることのないとても優しげな笑み。

そんな彼の真紅の瞳から、透き通った滴が落ちた。
ぽつりぽつりと落ちるその滴はアルファベットの「L」の文字へと滴り、木でできた墓の色を変えていく。

彼はその滴を流しながら……それでも笑うことを止めなかった。
笑いながら彼は口を開き、言葉を紡ぐ。
たった一言の言葉を。


「ありがとう」

それは感謝の言葉。今はもういない者への彼の素直な感情。
その言葉は風に流され、響くこともなく、その場で消えていった。
風に揺られた鈴がちりんと小気味のいい音を立てる。
それは彼の感謝への返事だったのだろうか。


彼はもう一度優しく笑いかけると、墓に背を向けて歩き出した。彼を待っている九人の仲間の元へと。


その墓に刻まれていたのは一つの名前。
大切な友人の、もう一人の彼の、たった一つの名前。

 

 

『Lennon』




FIN
____________________________________________________________


とりあえず衝動に駆られて書いてみました・・・駄文でスイマセン。

この話はIFの話です。考察ってわけではありません~

ちなみに分かってる方もいると思いますが、この作品はBUMPの名曲「K」を参考にさせていただきました・・・

なんぞ、それ?って方は一度聞いてみることをお勧めします~(ニコニコでもいいので・・・)


あ、ちなみに一番最初だけはレノン視点です。

感想いただけると嬉しいです!!

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if
やっぱバンプでしたか。途中から『これはひょっとして・・・』と思いましたが。しかし上手く絡めて仕上げていらっしゃる。手紙のトコなんて『これは!』と思いましたよ。このお手並みは流石ですな。

私が特にグッと来たものを感じたのは二人が手紙を受け取った所からの件とラストの恭介の笑みと涙。原作で彼が見せたものとは違う涙がとても穏やかに感じられて・・・じんわりきましたよ。

いやぁ、修羅場から帰ってきてさっそく貴兄に感想を書けるのがすげぇ嬉しいっす(泣)
某祭りも少しずつ読んで感想カキコしてきますよ。あぁ、やっとゆっくりssに浸れるw

なにかと慌ただしいこの師走、身体に気を付けてガンガッてください。でわでわ~!
haiziso 2007/12/07(Fri)02:59: 編集
Re:if
いつもコメントありがとうございます!!

やっぱりバンプでした~。Kを聞いていたら何かインスピレーションが刺激されて、気がついたら完成してました。これ・・・。
いや、正直あのクオリティを再現するのは難しかったです。というかできませんでした・・・まだまだ精進が必要ですね。自分。


たまには爽やかな恭介でした。俺の場合いつも暴走させてしまうんで・・・まぁそれは恭介に限りませんが、

しゅ、修羅場・・・?いったい何が?・・・詮索は無粋ですね。
こんなSSでも元気を与えられたなら嬉しいっす!!

しかし、名前の由来、てっきりシソの一種かと思ったんですが、違うんですね・・・

とにかくお互い体調には気をつけましょう。また読んでいただけると嬉しいです!!


【2007/12/07 23:31】
ぴえろ? レノンをレモンと間違えた愚か者さ!
「L」と聞いて、デスノを彷彿としたのは自分だけじゃないはずだ!(ぉ なるほど、事故直後(鈴シナリオ)辺りかなーと思いつつ読み進めていく。む、ちょっと気になる所いくつか発見。

>それでも彼は動く方の腕で便箋を持ち、口にくわえたペンに悪戦苦闘しながらも、必死に手紙を書こうとした。

これって口で書いたってことですよね? 片腕無事なら、そっちで書くような……何となく物を書くなら、利き腕>逆腕>口の順に書きやすいような気がしたもんですので。まぁ、多分、利き腕=完全に機能不能。逆手=多少動くが怪我で物は書けないって状況なんでしょうか?

L、バイクに撥ねられても走ったのか。もし、Lが○○ンなら、凄いな。んー、でも、直後に走れるかなぁ??? ヨタヨタ歩きがせいぜいのような……。病院を血だらけのネコが歩いてたら、誰か引き止めるような……。

――とか色々疑問を思ってましたが、大事なことを思い出しました。
これって鈴シナリオ直後だから、虚構世界の延長(自分は現実と仮定して書いてますが)なんですよね。(^^; なら、病院で血だらけのLが発見されなくても当たり前だ。恭介にはもうNPC作り出す力も残って無いだろうし……。正直、「なら、Lが傷つく描写余計じゃないだろうか?」とか思いましたが。L=恭介の分身と考えると、恭介が力尽きそうなら、Lもそうだろうと。(スタンドのように)

>先程花屋で買ってきた花束をその墓の、鈴の隣へと添えた。

え!?鈴、死んじゃってるんですかっ!?∑(∵)めちゃくちゃ、いやもう、くちゃくちゃだ。くちゃくちゃショックだ……。あ、そして、最後に一つ謝りたいことが。

『Lennon』

を『Lemon』(レモン)と一人読み間違え「ガチシリアスからまさかのオチ狙いっ!?」とビックリしたのはここだけの話さ!(ぉ
ぴえろ URL 2007/12/08(Sat)11:23: 編集
Re:ぴえろ? レノンをレモンと間違えた愚か者さ!
ぴえろさんコメントありがとうございます!!
いや、正直自分もLって間違えそうだよなぁとか思ってました。あはは

片腕が動かなかったので、紙を支えなくてはいけなかったんですが、目がすでに遠くなってたので手で近づけて・・・とか考えてたんですが、明らかに描写不足ですよね・・・なるほど。

この作品はやはりKをもとに書いてるので、どうしても走らせたかったんですよね・・・よろよろととか書けばよかったですね。参考になります。
いや、自分もバイクはどうしようか迷ったんですが、
Kのように満身創痍にするためには事故しかないかなぁと・・・すまんレノン。

鈴はー・・・確かに間違えやすそうですね、コレ・・・なにか形容詞をつけるべきでした。汚れた鈴?もしくはきれいに磨かれた鈴。こうすれば間違われませんよね~。勉強になるな・・・


LENNON LEMON確かに似ている・・・っておい!?

何はともあれ指摘ありがとうございました!!とても参考になりました!!またどうかお願いします!!
【2007/12/11 14:56】
ラストに乾杯!
うわぁ、うわうわぁ、もうどーしてくれんですかっておい!?さんっ! 卒論あがらなかったらっておい!?さんのせいですからねっ!(ぉぃ

Lというタイトル、そして手紙を届ける使命ということからすぐにバンプに繋がり、「そういえばいつだったかチャットで書くとかいってたなー」とぼんやり思い出した次第でありますー。
や、手紙を咥えて駆ける猫は轢かれてしまうというイメージが拭えない自分が悲しい(;;
あの鈴ED後の選択肢を手紙でやってのけるという発想と、すべてを終え、虚構世界のことをみんなが忘れてしまっても、彼のことを誰も覚えていなくても、一人覚えていて墓に花を手向ける恭介の姿がもう…脱帽!
あ、あと最後にドキッとしたのは一瞬鈴(スズ)を鈴(リン)と読んでしまった時。
ぴえろさんも指摘してますが、これって墓標にスズを置いてあるって意味ですよね??
そうだと言ってよっておいさんっ!?

ではー
REI URL 2007/12/11(Tue)00:56: 編集
Re:ラストに乾杯!
コメントありがとうございます!!って卒論大丈夫なんすか!?無理はしないでくださいね・・・って俺のせい!?

あれ?チャットで書いてましたっけ・・・?やべぇ思い出せない・・・まさか俺、若年性アルツハイマー!?このSSは本当にKのイメージで書きました。というか久しぶりにKをきいてたら、なんか降りてきて、このSSができました・・・恐るべしK。
やっぱりそうなると若者役は恭介かなぁと・・・。そうしたら手紙になんて書かせよう?ってなったとき、あの最後のせりふが浮かびました~。
実は「よくない」ではじめは終わる予定だったんですが、あっさりしすぎだろう!!ということで最後のが生まれました。

ちなみに鈴は・・・紛らわしくて本当申し訳ないです。何か形容詞つけとくべきでしたね。

コメントありがとうございます!!またよろしくお願いします!!

それと卒論がんばってください~
【2007/12/11 15:04】
web拍手御礼!!
いつも拍手してくださっている皆様!!まことにありがとうございます!!
皆さんの拍手が大きな励みとなります!!
まだまだ未熟ですが、これからもよろしくお願いいたします!!

12月6日
9件のweb拍手ありがとうございます!!


12月7日

>ロマンチック戦隊ジャンパージンと、真人のSURPRISEに噴いた。
笑っていただけたなら幸いです~。こんなカオスですが、これからもよかったらどうぞ~

>Kより先にデスノが浮かび上がった・・・、ごめん・・・。
ぶっちゃけ俺もそう思いました・・・。やべー。これはじめデスノと思いそうだな・・・みたいな。恭介、月っぽいですからね・・・

>よかったです。
その一言で元気百倍です!ありがとうございました!!

59件の拍手ありがとうございました!!


12月8日
>恭介からのメッセージをレノンが持ってきたという考えに感服です!少し泣けました!
もうこれはKに感謝です。Kを聞いた時のインスピレーションで作った作品ですから・・・楽しんでいただけたなら幸いです!!

>バンプのKはいい曲ですよね、私も高校の頃友達に聞かせてもらったんですが悲しくて涙が出た記憶があります
自分も最近聞き直して、よさを再認識したというか・・・始めて聞いた時、タイトルの意味がわかった時は鳥肌立ったなぁ・・・K最高です!!

>っておい! さんの作品全て読みました! 全てにおいて標準LVを超えた出来だと思います!脱帽です。
いえいえ、周りの皆さんがとてもうまいので自分はまだまだですよ・・・でもそう言っていただけるととてもうれしいです!!これからどんどん進歩していきたいので、なにとぞお付き合いください~

31件の拍手ありがとうございます!!


12月9日
8件の拍手ありがとうございます!!


12月10日
18件の拍手ありがとうございます!!


12月11日
6件の拍手ありがとうございます!!
っておい!? 2007/12/13(Thu)00:43: 編集
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