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「あけましておめでとうっ」
年があけるや否や、それだけを言うと鈴は俺に寄りかかりながら寝息を立て始めた。
まったく…コイツはこんなことのために必死で今まで起きてきたのか。そんな無茶苦茶な所はまさしく俺の妹と言っていい。
それはそうとして、この力尽きた小さな勇者の労に俺たちは答えてやらないとな。
俺はそう思いながらみんなの顔を見回す。どうやらみんな同じ考えに至ったようで、俺が何も言う前に頷いてくれた。
…さすがだな。お前たちは。
「あけましておめでとう」
目を閉じて寝息をたて始めた鈴に、俺たちは優しくその一言だけを告げた。
「よっこいしょっと」
俺はそう言って、すやすやと眠っている鈴を背中に背負う。
思えば小さかったコイツも随分と重くなったものだ。まぁ俺にとってはまだまだ相当軽いんだが、それでも鈴の成長を感じずにはいられない。
「恭介。かわろうか?」
「なんだ?理樹。そんなに鈴とくっつきたいのか?」
「い、いや、そう言うわけじゃないけど…ほら、一応鈴の彼氏だし、僕ももうそれくらいはできるからさ…」
意外と食い下がる理樹。鈴を託した身としてはそれでもいいんだが、何となく今は理樹をいじりまわしたい気分だった。
「そういえばお前、鈴に振袖を着せようとした時、ツッコまなかったよな~」
「っ!?」
俺が悪魔の笑みを浮かべながら理樹の方を向くと、痛いところをつかれたのか、理樹はビクッと反応して縮こまってしまった。
ふっ…この程度で動揺するとはまだまだ青いな。
「まぁつまりだ。理樹はそんなに鈴の振袖が見たかったと」
「うう…」
「くくく…素直に鈴とくっつきたいって言えよ。そうすればかわってやるからよ」
「も、もう!!べ、別にそう言うわけじゃないからっ!!」
そう言うと理樹は照れくさくなったのか、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
…西園にでも見られたらまた誤解されそうな光景だな。
もちろんそうならないように、事前に西園の位置をしっかりと確認しておいたのだが。
「さて、せっかく神社に来たんだし、お参りしに行くとするか」
「おー!!」
みんなが大きな声で俺の提案に答える。
俺は鈴を背負ったまま先頭に立ち、その後ろに他のみんなが続いた。
地元の神社とはいえ、正月ということもあり参拝に来ている客もなかなか多い。俺たちは長く続いた列の最後尾に並ぶことにした。
「なかなか時間がかかりそうですね」
「まぁいいじゃねぇか。こう言うのも初詣の醍醐味ってわけだ」
「くすっ…そうですね」
結局こういうものは気持ちの持ちようだ。どんなものだって楽しくしようと思えば意外と楽しくできるものだし、その逆も然り。待つしかないんだったら、その時間を楽しく過ごせばいいだけだ。
幸い俺たちはリトルバスターズ。俺達が揃えばどんなことだって楽しく彩ることができるはずだ。
「で、結局真人少年と謙吾少年は2008年最初に何をする男になったんだ?」
「ああ、聞いて驚け…俺は2008年最初に腹式呼吸で「ペスカトーレ!!」と叫んだぜ」
「うぉぉ!?かぶったああああああああああああ!!」
「ええ!?どんな確率さ、それ!?」
ははっ、お前たちは本当に愉快なやつだな。「お前が一番だろ!!」と言われるかもしれないが、お前らみたいなやつらと一緒にいれるからこそ、俺だって最高に楽しめるんだぜ?
「俺の方が先だった!!」とお互いに言いあっている二人、そしてそれを見て笑っているみんなを見ながら俺はしみじみとそんな事を考えていた。
除夜の鐘はまだ鳴りやまない。108つあるという煩悩なんて俺にとってはどうでもいいが、その規則正しいメロディは、心地のいい空気を演出してくれる。
…鈴にとってはいい子守歌かもな。
「鈴ちゃんよく寝てるね~」
「そうだな。見ろよこの間抜けな寝顔、うりうり」
「んーっ…」
俺は片手で鈴を支えながら、開いた方の手で鈴の頬をつつく。
「き、恭介さん。駄目だよ~。……でも、鈴ちゃん本当に幸せそう」
「そうか?寝顔なんてそんなもんだろ?」
「ううん。今の鈴ちゃんの寝顔、すごく安らかだもん。きっと恭介さんの背中だからだね」
そういうもんか…?
確かにこうやって鈴を背中で寝かしつけたことは何回もあった。もはや鈴にとってここは第二のベッドみたいなもんだからな。寝心地がいいというのはわからないでもない。
だけど…俺は本当に鈴にとっていい兄でいられたんだろうか?
「?どうしたの、恭介さん?」
「…いや」
その質問は誰にもしない。俺がそう聞けば、こいつらが「YES」という回答をするのは目に見えているからだ。
それに…俺にとってもそんな事はどうでもよかった。俺がいい兄であったとしても、そうじゃなかったとしても、俺はこれからもずっと鈴の兄であり続けるだけだ。
過去なんてどうでもいい。俺は常に最善を尽くすだけさ。これまでもずっとそうしてきたように。
今のはちょっと気障すぎるな。と自分自身にダメ出しをしながら俺は笑みを浮かべた。…鐘の音はいつの間にか鳴りやんでいた。
「さて、そろそろ俺たちの番だな」
俺たちの前にいるのはいつの間にか残すところ二組になっていた。
あと10分もしないうちに順番が回ってくるだろう。
「うん。そろそろ鈴を起こす?」
「でもコイツこうなったら起きねぇんだよなぁ…起こさなかったら起こさなかったで後が五月蠅いし」
理樹達、幼馴染の連中も昔を思い出しているんだろう。この後の事態を想定して苦笑している。
仕方ないな。コイツが起きたらもう一度初詣に付きあってやるか…と俺が諦観していると。
「ん、んん…?」
ふと、背中の鈴から声が聞こえてきた。
…ひょっとして目が覚めたのか?
「ま、まさか…そんなはずは!?」
「奇跡だ…奇跡が起こったんだ!!」
「俺は、俺は認めないぞぉぉ!!そんな事があってたまるかぁぁぁ!!」
それを見た理樹、真人、謙吾の三人が驚きの声を上げる。
無駄にオーバーリアクションな三人をを見て、他のメンバーが引いているが、それだけ異常事態ということだ。俺だって鈴を背負ってなければ、階段から転げ落ちそうなくらい驚いている。
「お前らっ!!失礼だぞ…人を一旦寝たらなかなか起きない子供みたいにっ」
「いや、そのまんまだから」
俺たちの大声で完全に目が覚めたのか、鈴が抗議の声をあげるが、それを理樹が一蹴する。
さすが理樹…ナイスツッコミだぜ。さすがは2007年ベストツッコミ賞受賞者だ。
というかわが妹よ…頼むから耳元で叫ばないでくれ。お兄ちゃん耳きーん!!だ。
「ふん。今日は理樹の部屋に行く前に昼寝をしたからな。もうバッチリだ」
「…だったらなんでさっきまで寝てたんだよ」
真人の珍しく真っ当な発言ににみんなで同意する。
「ちなみにそれ昨日な。というか去年だ」
「なにぃ!?あたしが昼寝したのは去年だったのか…どーりで眠くなったわけだ」
何というか、コイツは叩けば叩くほど面白い反応が返ってくるな。
背中の上で一人で納得している鈴に対して、俺は笑いをこらえるのに必死だった。まぁどのみち鈴からは俺の顔は見えないんだが。
不動の精神で表情だけは変えずに、俺は背中の鈴に問いかける。
「で、おにーちゃんの背中は寝心地が良かったか?」
「気色悪いこと言うな!!…ふんっ、むしろ寝心地が悪くて仕方なかったな」
「えー、でも鈴ちゃん、ぐっすり眠ってたよ~?」
「そ、それはあれだ!!幻覚だ!!実はあたしはずっと起きてたんだ!!」
小毬と鈴のあまりの微笑ましい光景に、俺は遂に耐えきれなくなって吹き出してしまう。
そんな俺の姿を見て恥ずかしくなったのだろう、鈴は俺の背中を両手で叩きながら反論してきた。
「何笑ってんじゃ、こらー!!」
「ははっ…いやスマンスマン。お前はずっと起きてた起きてた」
「ううう、馬鹿にすんなー!!」
ぽかぽかと俺の背中を叩く鈴だが、その程度じゃ痛くも痒くもない。ちなみに鈴得意のハイキックは俺が脚を押さえてるため、封じられている。
必殺技を失ったヒーロー状態の鈴にさらなる追撃を与えるため、俺は必要以上におどけた様子で口を開いた。
「で、ずっと起きてたお姫様。そろそろ背中から降りてもらえませんか?」
「にゃっ!?」
おそらく鈴は、ここで初めて自分がずっと俺の背中におぶさっていたことに気づいたのだろう。いや、気づいてはいたんだろうが、それがどういう事か認識してなかったと言った所か。
周囲を見回してみると、リトルバスターズの面々はもちろん、他の参拝客までもが俺たちに微笑ましい視線を向けている。
まぁ高校生が兄の背中におぶさって、大声で騒いでる姿なんて滅多に見られないだろうからな。
振り返らないでも鈴の顔がどんどん赤く染まっていくのがわかる。
「お、おおおおおおおろせ!!この馬鹿兄貴!!」
「仰せのままに、マドモアゼル」
「ふかーーーーーーーー!!」
鈴は俺の背中から降りると、すぐさま俺から距離をとった。
必死に赤い顔を隠そうとしているようだが、どこを向いても参拝客がいるためにあたふたとその場で回っている。
ちなみに俺の横ではいつの間にか来ヶ谷が出血多量で倒れていた。ピクピクと動くその亡骸からはとても幸せなオーラが漂っている。
…新年早々やりやがった。
「鈴ちゃーん!!ほらほらこっち向いて下さいヨ!!」
「こっちくんなー!!」
「ほら、逃げんなよっと」
三枝に追い回されて逃げ出しそうな鈴を真人がとっ捕まえる。グッジョブだ、真人。迷子になられでもしたら面倒だからな。
その後真人はもちろん新年最初のハイキックをくらっていたが…
「ははは…」
そんな光景に俺は思わず笑ってしまう。
…もう二度と鈴を背負うこともできないと思ってた…二度とこんな光景を見れないと思ってた。
今更ながら俺はこうやって普通に年を越せたことの幸せを噛み締める。鈴の成長をこの目で見れることの幸福を実感する。
全く…今日の俺は感傷的すぎるな。正月からこんなに辛気臭くなってどうするんだか。
「みなさん、私たちの番ですよ」
西園の落ち着いた声で、俺を含めみんなが我に帰る。本来の目的を思い出したようだ。
俺たちは人が捌けた賽銭箱の前に並んで立つ。
「ほらほら、鈴。早く来なよ」
「う~…」
理樹になだめられて、ようやく鈴も俺たちの所まで歩いてきた。
「ったく、お前もあの程度でおたつくなよ」
俺はそう言いながら鈴の頭をくしゃくしゃになでてやる。それに対して途中までされるがままにしていた鈴だが、何かに気づくとバッと俺の手を払いのけた。
「何してんじゃこらー!!」
「おっと」
どうやら今の鈴は、兄妹の微笑ましいスキンシップに過剰に反応するらしい。とりあえずこれ以上恥ずかしい思いをしたくないようだ。
少しからかいすぎたかだろうか…?まぁどうせコイツの場合、朝にはすっかり忘れるし、一切反省はしていないが。
「みんな、何を祈るかもう決めてあるよな?」
「恭介は就職祈願でしょ?」
痛いところをつかれた俺が、ピキッと顔を引きつらせながら横を見ると、理樹がニヤニヤしながら俺の方を見ていた。
…言うようになったじゃないか理樹。そっちがその気なら…
「…そう言えば鈴。さっき理樹がな…」
「ん?理樹がどーした?」
「って、わーわーわー!!ゴメン!!僕が悪かったから!!」
あっという間に形勢逆転。
ふっ、まだまだ青いな理樹。その程度で俺をからかおうなどとは片腹痛いわ!!
とまぁ心の傷が広がりそうな会話はここまでにして、俺は全員が賽銭を取り出したのを確認してからみんなに声を掛ける。
「じゃあ「いっせーの」で賽銭投げいれるぞ」
間髪入れず思い思いの返事をする彼らだが、それらは全て肯定の意味を持ったものだ。
最後に一応、二礼二拍手一礼の確認を行い、これで準備は整った。
「よし、いっせーの!!」
「せっ!!」
合図と同時に9枚の硬貨が飛び交う。それらは全て綺麗な弧を描いて賽銭箱へと吸い込まれていった。
それを確認した俺が鈴を鳴らし、みんなで二礼二拍手一礼。別に練習したわけでもないのに、ぴったりと揃った。
後は…祈るだけだな。俺たちはみんなで目を閉じて祈りを捧げる。
どうか今年も……でありますように。
「ふぅ、終わったな」
参拝が終わった俺たちは、温かい飲み物を買って一息つく。
「これからどうします?」
「…そうだな。ファミレス、カラオケといくらでも手はあるが…」
「どこも混んでそうだね」
みんながこれからのプランに向けてあーだこーだと議論するが、結論は決まりそうもない。
全く仕方ねぇなぁ…
はぁと溜息を吐いた俺は、その議論に横から入り込む。みんなもそれを待っていたかのように、じっと俺の言葉を待っていた。
「寮に帰るぞ」
「えー!!はるちんまだまだ遊び足りないデスヨ!!」
今日くらいは朝まで遊ぶ事を期待していたんだろう。三枝や、他のメンバーからも不満の声が上がる。
「話は最後まで聞け」
「え?」
もちろん俺だってこれくらいで終わる気なんてさらさらない。俺たちのNEW YEAR'S NIGHT FEVERはまだまだ始まったばかりだからな。
俺はみんなに見えるように、ポケットから取り出したレンタカーのキーを空高く掲げた。
「みんな!!初日の出を見に行くぞ!!」
目的地は…もちろん海。
俺たちは全員、以前修学旅行で使ったのと同じバンに乗り込んだ。助手席には、これもあの時と同じく理樹が座る。
「鈴。寝るなら今のうちにしておけよ?」
「だから子供扱いするなー!!」
後部座席から鈴が反論してくる。
子供ほど自分を子供と認めようとしないものなんだけどな。言ったらまた暴れ出しそうだから言わないが。
そんな様子をリトルバスターズのみんなは微笑ましそうに見つめる。そんないつも通りの…とても愛しい光景が俺の目の前には広がっている。
「ねぇ恭介。結局さっきは何を祈ったの?」
出発しようとした矢先、理樹が俺にそんなことを訪ねてきた。
「ああ…」
さっきというのは初詣のことだろうな。
まぁ、教えてやってもいいが…いや、やっぱりやめておこう。そっちの方が理樹の反応が面白そうだ。
「ははっ…内緒だ」
「えー、タメといてそんなのずるいよっ」
俺の期待通りの理樹の反応を十分に楽しんだ後、俺はバックミラー越しにみんなの顔を見渡す。
そこに映るみんなの顔は、出発の時を今か今かと待っていた。
よし、そろそろいいだろう。
「みんな、準備はいいな!!」
俺の掛け声に、あの時のようにみんなが頷く。
これは俺たちの新年最初のミッションだ。
最後に俺は、いつものように大声で宣言する。…たったひとつの願いを込めて。
「よし、ミッションスタートだ!!」
……今年も最高の一年でありますように。
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あけましておめでとうございます!!
みなさん去年は本当にお世話になりました!!皆さんのおかげで去年を無事に乗り切ることができました!!
今年もぜひぜひよろしくお願いします!!
ということで今年のはじめは恭介氏に飾っていただきました!!
やっぱりほのぼのとやってみましたがどうでしょう?
感想いただけると嬉しいです!
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もちろん普通の感想もとてもありがたいです!!
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