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自分で言うのも何だが、昔から私には大抵のことはできた。

勉学を始め、スポーツ、芸術など・・・

苦手と思える物はまずなかった。

だが・・・いくら理解しようと思ってもできないモノがあった。

・・・それが感情。

私がそれを理解しようとしている様は、まるでロボットが自分を人間だと勘違いしているようで・・・自嘲めいた笑いさえも浮かんだ。

その時の私は・・・私にはこんな笑いしかできないのだろうか?

欠陥人間の私には感情のまま笑うことなどできない事なのだろうか?

そんなことを考えていた気がする。

 



_____________機械と心_________________




「姉御?どうしたんデスか?」
「あ、ああ。すまない。考え事をしていた」

放課後の教室。
訝しげな葉留佳君に私はそう答える。

「ふ~ん。姉御が考えること・・・はっ!!まさか幼女を誘拐する計画を!?」
「君は私を何だと・・・。断罪されたいのか?」
「い、いや~。冗談ですよ・・・はは」

そう言って苦笑いする葉留佳君。
後でお仕置決定だな。

「でも、本当にどうしたんデスか。なんか心此処にあらずって感じでしたヨ?」
「別になんでもないさ。それより君は二木女史に呼び出されてるんじゃないのか?」
「あ!忘れてた!!」

私は平然と答えて話を逸らす。
結果、葉留佳君はそっちに気がいって、さっきまでの事は忘れてしまったようだ。
扱いやすいんだか、扱いにくいんだかわかりにくいな君は・・・

「それじゃ、また明日っス!姉御!!」
「うむ、また明日だ。葉留佳君」

葉留佳君と別れの挨拶を交わす。
一人残った放課後の教室はすでに静まり返っていた。

思えば・・・リトルバスターズに入ってからもう随分と立つ。
始めは・・・まさかこんなことになるとは思いもしなかった。
この私にこんなにも固執する場所ができるとはな・・・

「ん?」

ふと教室の窓から見慣れた姿を見つける。
あれは・・・恭介氏に鈴君か。
それを確認した私は2人のもとへと向かう。

「やあ、恭介氏、鈴君」
「お、来ヶ谷か」
「何か用か?」

鈴君はこちらを警戒しながら聞いてくる。
ああ・・・かわいい。

「別に。見かけたから声をかけただけさ。君たちこそどうしたんだ?」
「ああ、これから鈴と買い物に行くんだ」
「2人でか?」
「・・・悪いか?」

こちらの質問に鈴君が恥ずかしそうにしている。
なんだかんだ言ってこの兄弟はとても仲が良い。
それを鈴君に言ったら猛スピードで否定しそうだが。
だがそんな姿も・・・萌える・・・。

「来ヶ谷も来るか?」
「私もか?」
「ああ」

そこで恭介氏は思わぬ提案をした。
私は特に買うものもないんだが・・・
そう思いながら鈴君の方を見る。

「・・・!!」

突然視線があったことによって鈴君がビクッと反応する。
・・・!!これはやばいだろう!!・・・かわいすぎる!!
まあこのあとはどうせ暇だしな。
恭介氏につきあいながら、鈴君観察というのもオツなものだ・・・。

「で、どうする?」
「うむ、同伴させてもらうとしよう」
「・・・う~」

鈴君はまだ警戒しているようだ。
その態度がおねーさんのリビドーに火をつけていることに気づかないのだろうか?

「ん?」

ふと恭介氏をみると、真剣な顔で何かを考え込んでいるようだった。
一体何を・・・?


「来ヶ谷、来るか・・・か。アリだな・・・」
「・・・」
「最悪にセンスないな・・・お茶の間はシーンだ・・・」

全く・・・この男は・・・


3人で雑談をしながら商店街に到着。
もう鈴君の警戒も解けているようだ・・・チャンスだ・・・ジュルリ。
そんなことを考えていると、書店の前でふと鈴君が口を開く。

「じゃ、あたしは行ってくる」
「ああ、買い物済んだらここに集合な。迷うなよ?」

迷うか!!ぼけー!!といいながら商店街を進んでいく鈴君。
・・・逃がしたか。

「なんだ。二人で同じ店に行くんじゃなかったのか?」
「あー、違う違う。今日は新作のどろり濃厚モンペチがでるらしくてな」
「・・・それはうまいのか?」
「・・・猫に聞いてくれ」

二人で想像して気持ち悪くなる。
しかし鈴君はモンペチだとして・・・

「で、恭介氏は何を買いに来たんだ?」

私は素直に疑問を口にする。

「ああ、今日はスクレボの最新刊の発売日だからな!!当然それ目当てだ!!」
「はは・・・本当にスクレボが好きだな。そんなに面白いのか?それは?」

その言葉を聞いた瞬間。
恭介氏の目がキュピーンと輝いた。
・・・しまった。

「聞きたいか?そうだな。まずはスクレボを書いている作者からなんだが、彼は・・・」
「・・・」

こうして私は恭介氏からスクレボ講釈を受けたのだった・・・
というかコアすぎるぞ!!内容が!!

「・・・恭介氏。これくらいにしておこう。あとは実際読んで確かめてみるさ」
「む、そうか。まだまだ語り足りないが、ネタバレしてもいけないしな」

なんとか話を逸らすことに成功したようだ。
しかし・・・


「恭介氏は本当に楽しそうだな」


思ったことが自然と口から出ていた。
非情になる時はいくらでもそうなるのに、
こういうときの彼はまるで子供のようだ。
きっと恭介氏は誰よりも感情を理解しているのだろう。

「・・・まるでお前は楽しくないみたいな言い方だな」

・・・さすがに鋭いな。
私の考えなどお見通しというわけか。

「・・・楽しい。とは思うんだ。だが私にはそれが本当に「楽しい」という感情なのか理解できないのだよ」


そう。私は感情を理解したかった。
リトルバスターズのみんなのような感情が欲しかった。
・・・殆ど覚えてはいないが、あの世界での出来事で感情を少しは理解したつもりだった。
だが欠陥のある私にはそれが本当に正しい感情なのかが理解できなかったらしい。
私の「楽しい」は虚構の「楽しい」ではないだろうか。
そんな考えが頭の中から抜けなかったのだ。


「なあ、恭介氏はどのように「楽しい」ということを理解しているんだ?」

「・・・何も理解なんてしてないし、する必要もないさ」

溜息をつき、少し呆れたように言う恭介氏。
ただ、その目はどこかやさしい。


「?・・・それはどういう?」
「ま、そのうちわかるさ。・・・お、鈴が帰ってきたみたいだ」


そういって恭介氏は手をあげる。
その視線の先には、モンペチの入った袋を持った鈴君。
この話は一旦お開きと言ったところか・・・

「やべっ!!まだスクレボ買ってねえ!!」

書店に駆け込む恭介氏。
やれやれ・・・

しかしさっきの恭介氏の言葉
ーーー何も理解なんてしてないし、する必要もないさ。
あれはどういう意味なんだ?
さっぱりわからんぞ・・・。

「くるがや。どうした?」
「いや、別になんでもないさ」

不思議そうにする鈴君に私はそう答える。
いずれにせよ感情を理解するのはまだ先になりそうだな。
そう考えながら、ふと道路の方を見る。


・・・路上に一匹の子猫がいた。
前方から車が近づいてきている。
猫には気づいていないようだ。

あれは・・・間に合わないな。
仮に猫を助けられたとしても、私が轢かれるだろう。
それに今あの猫を助けても、この先1匹では生きていけないことは容易に想像できた。

そう、私は状況を理解していた。
自分がどうすべきかも・・・。
ここは見なかったことにするべきだ・・・


「くるがやっ!?」



・・・しかし
次の瞬間私は猫を抱えて車の前に飛び出していた。






「ん・・・」
「くるがやっ!!大丈夫かっ!?」

私は・・・どうしたんだったか。
そうだ・・・猫を助けて車に轢かれて・・・
それで気をうしなっていたようだ。

「来ヶ谷。俺がわかるか?」

恭介氏が真剣な顔で聞いてくる。
いつもそうだったら、かなりの二枚目なんだがな・・・

「・・・恭介氏だろう」
「よし、とりあえず大丈夫みたいだな。今救急車を呼んだから安静にしてろ」
「別に大した怪我はしてない。必要ないさ」
「ダメだ。頭を打ってたりしたら、後が大変だからな」
「そーだ。おとなしくしてろっ」

ふう・・・鈴君にまで言われては仕方ないな。
よく見ると鈴君はさっきの子猫を抱えている。
・・・そうか。無事だったか。
私はそれを見て薄く笑った。



その後、すぐに救急車が来て私は病院に運ばれた。
検査の結果、大した怪我もなく、ちょっとした手当だけを受けて終わりとなった。

「お、早かったな」
「まあな。案の定大したことはなかったよ」
「それは何よりだ」

私と恭介氏は病院の廊下で笑いあう。
鈴君も来たがったそうだが、猫を見てろと恭介氏に言われて渋々病院の外で待っているようだ。
ちなみに、車の運転手は私に謝ってきたが、そもそも飛び出したのはこっちだったこともあり、お互いにお咎めなしということにした。

「しかし、来ヶ谷が車に轢かれるなんてヘマを犯すとはな。目測を誤ったか?」
「いや・・・、理解してはいたんだ。猫を助ければこうなるってことも、飛び込むべきじゃないってことも」

私は正直に思ったことを話す。
恭介氏はそれを真剣な顔で聞いている。

「・・・だが、轢かれそうな猫を見た瞬間・・・頭や胸が熱くなって、気がついたら猫を助けていた・・・自分の行動ながら全く理解できん」

恭介氏はそれを聞いた途端くっくと笑いだした。
・・・どうしたんだ?


「それでいいじゃないか」
「・・・何がだ?」
「それが感情ってやつじゃないのか?考えたって感情なんて理解できないもんだ。いや、頭で理解できないから感情って言うんだろうな」

恭介氏は笑いながら諭すように言う。

「俺だってそんなもん全く理解してねーよ。ただ楽しいから楽しい。それ以上の答えなんて必要ないさ」

その言葉は私の深いところまで浸透していった。
・・・なぜだろう。
今までの疑問が氷解していくのを感じる。

ああ、そうか・・・
私はついに理解したのだな・・・
感情とは理解できないものだということを私は理解したんだ。
全く・・・なんて馬鹿馬鹿しい答えだ。
・・・だが・・・悪くないな。

私と恭介氏がそうして笑っていると・・・



「来ヶ谷さんっ!!」

突如病院の廊下に大声が響き渡った。
・・・この声は。
その方向を振り返るとリトルバスターズのみんながいた。

「よかった・・・恭介が来ヶ谷さんが事故にあったっていうから・・・」
「だから言ったんです。来ヶ谷さんのことですからどうせ大したことありませんって」
「とか何とか言っちゃって~。それ聞いた瞬間にお茶こぼして大変だった癖に~」
「き、気のせいです・・・」
「うあ~ん!!ゆいちゃ~ん。よかったよ~!!」
「わふー!!思ったより元気そうでなによりですっ!!」
「大丈夫か?ジャンバー縫ってやろうか?」
「俺の筋肉わけてやるから、さっさと直せよ!!」

病院だということを忘れて私に駆け寄るリトルバスターズの面々。
ふう・・・全く君たちは・・・
私は恭介氏に視線を送るが、恭介氏は素知らぬ顔だ。

「くるがや」

子猫を抱えた鈴君が私に声をかける。
結局そのまま病院にはいってきたのか・・・

「?何かね、鈴君」

次の瞬間、ぺちんと軽く頬を叩かれる。
・・・な!?
全くの予想外の事態に一瞬思考が停止する。

「・・・心配させた罰だ。あと・・・それと・・・その・・・猫・・・ありがとう」
「いや・・・、礼をいわれるようなことをした覚えがないんだが・・・?」
「ははっ、何言ってんだよ?鈴へのプレゼントなんだろ?あの猫」

恭介氏が私の肩を叩く。
ああ、そういうことか・・・
全く。本当に敵わんな・・・。

「・・・ああ、そうだな。可愛がってくれよ?」
「・・・うん」
「そのかわりと言っては何だが・・・私は鈴君を可愛がるぞ!!」
「・・・!!はーなーせー!!」

私の腕の中で暴れる鈴君。
そしてそれを見て笑うリトルバスターズの面々。

「来ヶ谷」

そんな騒ぎの中、恭介氏が私に聞く。
あの屈託のない笑顔で


「リトルバスターズは楽しいか?」


そんな質問、答えは決まりきっている。
きっぱりと私は答える。


「ああ」


そして・・・私も笑ってやった。
心からの笑顔で



「最高だな!!」

______________________
今回は来ヶ谷シリアスで・・・

う~む、書きにくいな・・・

あまり来ヶ谷を書くのは向いてないかもしれませんね。

「欠けては生きないモノ」の逆で、今回は恭介が来ヶ谷に教えるパターンです。

なんかこの2人は将来いい飲み友達とかになりそう・・・。

恭介が付き合うとしたら・・・小毬とかですかね。
個人的にみおっちと付き合って欲しい気も・・・

来ヶ谷とはタイプが似てるんで恋愛にはならない気がします。

逆に来ヶ谷は・・・やっぱり小毬!?(理樹じゃないのかよ!?)


と、いうか学校で何やってるんだ俺は・・・

ということで部活行ってきます~。

感想いただけると嬉しいです!!
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とてもよかったですよ~
今日始めて、このHPきましたけどとてもいいSSが大変揃っていていいと思いましたw
来ヶ谷のSSは始めてみるんですがとてもいいと思いましたwこれからもがんばってください~
WAKAME 2007/10/18(Thu)22:07: 編集
Re:とてもよかったですよ~
コメントありがとうございます!!

まだまだ未熟ですが・・・そう言っていただけると大変な励みになります!!

よかったら全部の作品を見ていただけると嬉しいです!!
【2007/10/19 09:23】
姉御最高だよ姉御
ごちそーさまでしたっ♪(いろんな意味でww

姉御は何でもこなせてしまう自身の才能のせいで無感動なまま育ってしまい感情を切望するようになったワケですが、感情がまったくないわけじゃないんですよね。
本編では理樹を通してそれに気付いていくのですが、棗兄妹との関わりの中で知る事になる…。これはよい姉御補完SS!
あと、「欠けてはいけないモノ」と対比してみるとすごく面白い!
「欠けては~」では、恭介に「来ヶ谷も(最高!と)叫ぶか?」と訊かれ断った姉御が、今回は「最高だな!!」と笑って答える・・・。そこに姉御の変化というか成長が見えます! 姉御最高っ!!

それと姉御、車に轢かれといてたいした怪我じゃないってどれだけ無敵なの!? 魔王?!
姉御が台詞の中で「!!」を使うと、謙吾のようにネジが緩んでしまったのでは…? と思ってしまったのはきっとREIだけじゃないハズww
REI URL 2007/10/19(Fri)00:34: 編集
Re:姉御最高だよ姉御
コメントありがとうございます!!
姉御は頭がいいせいで、感情まで頭で考えてしまったと思うんですよね・・・
だから、自分に感情があるのに、それがわからないという・・・

今回はやはり「欠けては~」の対比においた作品にしてしまいました!!
「最高だな!!」のくだりに気づくとは・・・さすがREIさん!!
書いててぶっちゃけ誰も気づかないだろうな・・・って思ってました。

来ヶ谷はリトバス超人四天王の一人ですからね・・・
謙吾とか屋上から一人抱えて飛んだのに・・・腕だけってどんだけー
ちなみに真人なら猫を抱えず車を押し返します。(なにー!?)

是非今後ともよろしくお願いします!!
【2007/10/19 09:35】
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